うきつ

于吉

生没年? – 200年 所属後漢

江東に信仰を集め、孫策に誅された道士

能力値
統率 F
武力 F
知力 D
計略 E
政治 F
人望 C
関連年表
順帝期 曲陽の泉水で神書を得たと『後漢書』は記す
順帝期 弟子の宮崇が『太平清領書』として朝廷に献じる
後漢末 呉・会稽に精舎を立て、符水で人々の病を癒やす
後漢末 江東の庶民から篤い信仰を集める
200年頃 郡城の門楼の下を通り、諸将・賓客の三分の二が拝しに下りる
200年頃 孫策に「君臣の礼を忘れさせる者」として捕らえられる
200年頃 呉夫人と諸将の助命嘆願も容れられず斬られる
200年頃 信者は「尸解して仙となった」と称し、なお祭り続ける
200年4月 孫策が許貢の食客に受けた傷により没する
※順帝期との年代の隔たりは『志林』以来疑問視されている

略歴

于吉は、後漢末の道士である。琅邪の人と伝わる。 『後漢書』襄楷伝によれば、順帝の時代(126〜144年)、于吉(干吉とも記される)が曲陽の泉水のほとりで神書百七十巻を得た。弟子の宮崇がこれを朝廷に献じ、『太平清領書』と号された。のちの『太平経』であり、黄巾の乱を起こした張角の太平道が奉じた教典の、その源流にあたる書物である。 後漢末、于吉は東方から呉・会稽の地へ移り住み、精舎を立てて香を焚き、道書を読んだ。符水——呪符を焼いて浸した水——をもって人々の病を癒やしたため、江東の庶民は競ってこれに仕えたという。 建安五年(200年)ごろ、孫策が郡城の門楼の上で諸将や賓客を集めていたとき、于吉が着飾って楼下を通りかかった。すると居並ぶ諸将・賓客の三分の二が、席を立って楼を下り、拝礼のために駆け寄った。接待役が叱って止めようとしても、誰も聞かなかった。 孫策はその場で于吉を捕らえさせる。母の呉夫人や諸将がこぞって助命を願ったが、孫策は容れず、于吉を斬ってその首を市にさらした。信者たちは「死んだのではない、尸解して仙となったのだ」と言い、なお祭り続けたという。 同じ年の四月、孫策は許貢の食客に襲われた傷がもとで世を去った。二十六歳であった。この符合から、于吉の祟りを説く物語が生まれることになる。ただし、祟りを記すのは後世の説話であり、『三国志』本文は孫策の死と于吉とを結びつけてはいない。

逸話

孫策が于吉を斬った理由は、迷信を憎んだからではない。楼上から見た光景そのものが理由であった。 『江表伝』はこう伝える。門楼に諸将と賓客を集めていたその席で、于吉が漆塗りの箱を携え、装いを整えて楼下を通り過ぎた。とたんに、居並ぶ者の三分の二が席を立ち、楼を下りて拝礼に向かった。接待役が叱りつけても、誰一人止まらない。 孫策の言葉が残っている——「この者は妖妄であり、人の心を惑わすことができる。現に諸将に君臣の礼を忘れさせ、みな私を置き去りにして楼を下り、拝ませたではないか。除かぬわけにはいかぬ」。自分の目の前で、臣下の忠誠が別の権威に流れていくのを見た。それが決め手であった。 母の呉夫人は助命を願った。「于先生は軍中を助け、将士の病を治してきたのです。殺してはなりません」。諸将も連名で嘆願した。だが孫策は、南陽の張津という前例を挙げて拒んだ。交州刺史であった張津は、聖賢の典籍も漢家の法も捨て、赤い頭巾をかぶって瑟を鳴らし香を焚き、邪俗の道書を読んで「これで教化を助けるのだ」と称したあげく、ついに南夷に殺された——その轍を踏むわけにはいかない、と。 于吉は斬られ、首は市にさらされた。それでも信者たちは「あれは死んだのではない、尸解して仙となったのだ」と言い、遺骸を祭り続けたという。 孫策がここまで恐れたのには、はっきりした理由がある。『後漢書』によれば、于吉が曲陽の泉水で得た『太平清領書』こそ、のちの『太平経』——十数年前に天下を揺るがした張角の太平道が奉じた教典の源流であった。符水で病を癒やし、庶民の信を集める道士という姿は、黄巾の乱の始まりとそっくり同じである。孫策が見ていたのは一人の老道士ではなく、江東で再演されかねない黄巾の影であった。 ただし、この于吉が本当に同一人物なのかについては、古くから疑問が呈されている。虞喜の『志林』は、順帝の時代(126〜144年)に神書を献じた于吉が建安五年(200年)まで生きていたとすれば、百歳をはるかに超える計算になると指摘した。裴松之もこれを引いて諸説を並べている。同名の別人か、あるいは名跡を継いだ者か——今も定まっていない。 なお、孫策が于吉の亡霊に祟られて傷を破り落命したという筋は、後世の説話が加えたものである。『三国志』の本文は、孫策の死因を許貢の食客に受けた傷とのみ記し、于吉の名を出してさえいない。

評価

于吉は、民間の道教信仰の広がりを背景に登場した宗教的人物であり、その死とその後の孫策の急死とを結びつける説話は、後世に強い印象を残した。 権力者が、みずからをしのぐ民衆の信望を恐れて宗教者を弾圧する、という構図は、時代を越えてしばしば繰り返されたものであり、于吉の逸話はその一つの典型として語り伝えられている。

演義

小説『三国志演義』では、江東で民の信仰を集める仙人的な道士として登場する。孫策がこれを妖術使いとして斬るが、その後、于吉の亡霊にたたられる。 亡霊に悩まされた孫策が、鏡に映る于吉の姿に驚いて傷を破り、まもなく落命する。孫策の死を彩る、怪異の挿話として描かれている。
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