ちょうてい

張悌

巨先 生没年? – 280年 所属

亡国の日に一死を選んだ、呉最後の丞相

能力値
統率 D
武力 D
知力 C
計略 D
政治 C
人望 C
関連年表
呉中期 襄陽郡に生まれ、若くして名を知られる
263年 蜀の滅亡に際し「次に危ういのは呉」と予見するが、人々に笑われる
呉後期 軍師を経て丞相に至る
274年 陸抗が没し、呉の防衛の要が失われる
280年 晋の大軍が六路から侵攻する
280年 三万を率い、沈瑩・諸葛靚らと長江を渡って迎撃に向かう
280年 諸葛靚の退却の勧めを退け、「国が亡ぶ日に死なぬは恥」と決戦を挑む
280年 版橋で敗れて戦死。まもなく呉は滅び、三国の分裂が終わる

略歴

張悌、字を巨先といい、荊州襄陽郡の人である。若くして名を知られ、呉に仕えて累進した。 炎興元年(263年)に蜀漢が滅んだとき、呉の人々の多くは「魏は蜀を得たものの、国内に憂いを抱えており、長くは続くまい」と論じた。だが張悌ひとりは、これに異を唱えて言った——「曹操は武功こそ天下を覆ったが、民は畏れて心服しなかった。曹丕・曹叡の代も苛政が続いた。いま司馬氏は三代にわたって功を積み、民は久しく安んじている。その勢いのままに蜀を併せた以上、次に危ういのは我が呉である」。呉の人々はこれを笑ったが、その予見は十七年後、そのとおりになった。 やがて張悌は軍師を経て、天璽年間に丞相へ進む。だが暴君・孫晧のもとで呉の国政はすでに乱れ、名将・陸抗も世を去って、防衛の要は失われていた。 天紀四年(280年)、晋の大軍が六路から呉へなだれ込む。丞相・張悌はみずから三万の兵を率い、沈瑩・諸葛靚らとともに長江を渡って、晋の王渾の軍を迎え撃とうとした。すでに呉の敗勢は誰の目にも明らかであり、周囲の者は無理な渡河をやめるよう勧めたが、張悌は退かなかった。 「呉が滅びることは、もはや賢愚を問わず皆が知っている。しかし国が亡ぶまさにその日に、一人の臣も国のために死なぬとあっては、あまりに恥ではないか」——そう言って渡河し、版橋のあたりで晋軍と決戦を挑んだ。 衆寡敵せず呉軍は大敗し、張悌は沈瑩・孫震らとともに乱軍のなかに討ち死にした。まもなく孫晧は降り、呉は滅ぶ。九十年に及んだ三国の争乱は、この丞相の死のすぐあとに終わりを告げた。

逸話

張悌の名を最も高からしめたのは、十七年前の予見であった。蜀が滅んだ263年、呉の人々は「魏は蜀を得ても内憂を抱えており、長くはない」と楽観していた。そのなかで張悌ひとりが、司馬氏三代の積み重ねと民心の安定を挙げて、「次に危ういのは我が呉である」と説いた。人々はこれを笑ったが、280年、まさにそのとおりに呉は滅ぶ。そして張悌自身が、その日に死ぬことになる。 決戦の直前、副将の諸葛靚が退却を勧めた。「存亡には天数というものがあります。あなた一人が支えられるものではない。なぜみすみす死を求められるのですか」。張悌は涙を流して答えた——「仲思(諸葛靚の字)よ、今日は我が死ぬ日だ。わしは幼いころ、あなたの父上に見出された。以来つねに、その知遇に報いぬまま死に損なうことを恐れてきた。いま身を社稷に捧げられるのなら、何をためらおう」。 その「あなたの父上」とは、かつて淮南に司馬氏へ反旗を翻し、寿春に散った諸葛誕である。諸葛誕は人質として子の諸葛靚を呉へ送り、その靚が今、呉の副将として亡国の戦場に立っていた。父を死に追いやった司馬氏の軍を前に、二人の会話は交わされたのである。 諸葛靚は張悌の手を取って引き立たせ、無理にでも連れ去ろうとした。だが張悌は動かず、そのまま踏みとどまって討たれた。諸葛靚は涙して去り、のちに晋が呉を平定したあとも、父の仇である司馬氏を憚って生涯洛陽の朝廷に背を向け続けた。

評価

張悌は、勝算なきを承知のうえで、国が滅ぶ日に臣としての一死を選んだ、呉最後の忠臣である。大勢はいかんともし難くとも、社稷のために死ぬことをもって臣の節とした、その覚悟は際立っていた。 亡国の丞相の壮烈な最期は、呉の落日を締めくくる一つの見せ場として、後世に語り継がれている。

演義

小説『三国志演義』では、呉の最後の局面で登場する丞相として描かれる。晋の侵攻に際し、周囲の反対を押し切って渡河し、決戦を挑む。 「国が亡ぶ日に死なぬは恥」と言い放って戦い、乱軍のなかに散る。呉の滅亡を彩る忠臣の最期として綴られている。
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