りみつ

李密

字令伯 生没年224年 – 287年 所属蜀

『陳情表』に孝を綴った、蜀の文人

能力値
統率 F
武力 F
知力 C
計略 E
政治 D
人望 C
関連年表
224年 犍為郡武陽県に生まれる
— 祖母・劉氏に育てられ、譙周に学ぶ
— 蜀の郎となり、たびたび呉への使者を務める
263年 蜀漢が滅亡する
— 『陳情表』を奉り、太子洗馬の召しを辞する
— 祖母の喪を終え、洛陽に上って太子洗馬となる
— 漢中太守のとき賦した詩が武帝の忿りを買い免官される
287年 家で没する

略歴

李密、字を令伯といい、犍為郡武陽県の人である。一名を虔という。224年に生まれた。生後六か月で父を失い、四歳のとき母が再嫁して家を去ったため、祖母の劉氏に育てられた。李密はこの祖母に深く孝養を尽くし、その孝行は近隣に聞こえた。 学問は譙周に学んだ。同門の人々は、彼を孔子門下の子游・子夏になぞらえたという。蜀に仕えて郎となり、たびたび呉への使者を務め、その才弁をもって知られた。 263年に蜀が滅び、晋の世となると、その名を惜しんだ武帝・司馬炎が、李密を太子洗馬に召し出そうとした。だが李密には、年老いて病がちな祖母がいた。いまその世話をやめて仕官すれば、祖母を看取る者がいなくなる。李密は辞退するにあたり、その事情を切々と綴った上表文を奉った。これが、古今の名文と讃えられる『陳情表』である。 祖母・劉氏は九十六歳で世を去った。服喪を終えた李密は、改めて召されて洛陽に上り、太子洗馬となる。のち温県の令、漢中太守を務めたが、晩年、賦した詩が武帝の忿りを買って官を免ぜられた。287年、家で没した。六十四歳であった。

逸話

『陳情表』は、祖母の看護を理由に出仕を辞する、たった一通の上表文である。李密はまず身の上を述べる——「生まれて六か月、慈父はわたしに背を向けました。四歳のとき、舅が母の志を奪いました」。孤児となった自分を、祖母がただ一人で育てたこと。そして、「煢煢(けいけい)として孑立(げつりつ)し、形と影とが相弔(あいとむら)う」——身寄りなくただ一人立ち、自分の形と影とが互いを弔いあうばかりであった、と。 祖母はいま重い病にある——「劉(祖母)は日の西山に薄(せま)るごとく、気息は奄奄(えんえん)として、人の命は危うく浅く、朝に夕を慮(はか)ることもできません」。そして核心の二句——「臣に祖母がなければ、今日に至ることはできませんでした。祖母に臣がなければ、その余年を終えることはできません」。結びに、烏が老いた親に餌を運ぶ私(わたくし)の情をもって、どうか最後まで養わせてほしいと乞うた。武帝はこれを読んで、「士に名があるというのは、虚しいことではないのだな」と言い、召しを止めたと伝わる。 洛陽に上ったのちの問答も残っている。司空・張華が「安楽公(劉禅)はどうであったか」と問い、李密は「斉の桓公に次ぎましょう」と答えた。張華はさらに尋ねた——「孔明の言教は、なぜあれほど細かいのか」。李密の答えはこうである——「昔、舜・禹・皋陶が語り合ったからこそ、言葉は簡にして雅でありえました。『大誥』が細かいのは、凡人に語りかけるものだからです。孔明が語りかける相手には、己に匹敵する者がいなかった。だから言教は細かくなったのです」。張華は「善し」と言った。細かすぎるという非難を、相手の非ではなく聞き手の不足の問題に裏返したのである。 温県の令であったころ、憎んでいた従事について、人への手紙にこう書いた——「慶父(けいほ)死せずんば、魯の難いまだ已(や)まず」。春秋の魯を乱した慶父の名を借りた、痛烈な悪口である。従事はこの手紙を告発したが、司隷は、県における李密の清廉と慎み深さを見て、罪に問わなかった。 晩年、漢中太守に出されたことを不本意として怨みを抱いていた李密は、東堂で餞(せん)を賜ったとき、詩を賦せとの詔を受けた。その末章がこれである——「人もまた言う、事には因があり縁があると。官に引き立ててくれる人がなければ、田に帰るにまさるものはない。明らかな御方が上にいらっしゃるのに、この言葉はまことにそのとおりなのか」。武帝はこれを忿(いか)り、都官従事の奏によって李密は官を免ぜられた。『陳情表』に涙した同じ皇帝が、別の一篇によって彼を退けたのである。

評価

李密は、祖母への孝を貫き、それを不朽の名文『陳情表』に結晶させた、蜀の生んだ文人である。君命よりもまず肉親への情を優先し、それを誠実に訴えたその態度は、忠と孝のはざまに立つ人の心を、みごとに言葉にした。 『陳情表』は、「これを読んで涙せぬ者は孝心なし」とまで評され、後世、孝の心を伝える名文の代表として、長く読み継がれてきた。

演義

小説『三国志演義』には登場しないが、蜀の滅亡後を生きた文人として、その名は『陳情表』とともに広く知られている。 亡国の臣が、君命と孝心のはざまで綴った真情の名文は、三国の物語のその後を彩る、忘れがたい一篇である。
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