さいえん

蔡琰

文姫 生没年生没年不詳 所属後漢

戦乱に翻弄されながら詩と学を残した、後漢末の才女

能力値
統率 F
武力 F
知力 B
計略 E
政治 E
人望 C
関連年表
後漢末 大学者・蔡邕の娘として生まれ、学才と音律をうたわれる
幼少 六歳で琴の切れた絃を聴き分け、非凡を示す
後漢末 河東の衛仲道に嫁ぐが、夫が早世し実家へ戻る
192年 父・蔡邕が董卓の乱の累で獄死する
194年頃 南匈奴の騎兵に捕らわれ、北の地へ連れ去られる
195〜206年 左賢王の妻として十二年を過ごし、二子をもうける
207年頃 曹操が金と璧をもって身請けし、漢へ帰る(文姫帰漢)
帰国後 董祀に再嫁。父の蔵書四百余篇を記憶から書き起こす
帰国後 『悲憤詩』二首をのこす

略歴

蔡琰、字を文姫(一説に昭姫)といい、世に蔡文姫と呼ばれる。後漢末の大学者で、書と音律に比類なきをうたわれた蔡邕の娘である。父ゆずりの博学で、文才と音律にすぐれ、琴の名手としても知られた。 はじめ河東の衛仲道に嫁いだが、夫は程なく世を去り、子もなかったため実家へ戻った。やがて董卓の乱を機に天下は乱れ、父・蔡邕もその累で獄死する。興平年間(194〜195年)、中原に攻め入った南匈奴の騎兵に、蔡琰はとらえられて北の地へ連れ去られた。左賢王の妻とされ、異郷で十二年を過ごし、二人の子をもうけている。 のち中原を平定した曹操は、旧友であった蔡邕に嗣子のないことを惜しみ、使者に金と璧を持たせて匈奴に贈り、蔡琰を身請けして漢の地へ帰らせた。世にいう「文姫帰漢」である。だが異郷でもうけた二人の子は連れ帰ることを許されず、母子は引き裂かれての帰還であった。帰国後、曹操の計らいで屯田都尉の董祀に再嫁している。 曹操が蔡邕の蔵書について尋ねると、蔡琰は「父の書は四千余巻ございましたが、戦乱で散り失せ、いま憶えておりますのは四百余篇」と答えた。曹操が書き手を遣わそうと申し出ると、男女の別を理由に辞し、みずから筆をとって書き起こして献じた。その文に誤りは一つもなかったという。 異郷での嘆きと、子と別れて帰る母の断腸をうたった『悲憤詩』二首が伝わる(琴曲『胡笳十八拍』も蔡琰の作と伝えられるが、後世の仮託とする見方が有力である)。乱世に生きた女性のまれな肉声として、その作は今なお読み継がれている。

逸話

蔡琰の非凡は幼いころから知られていた。六歳のとき、父・蔡邕が琴を弾いていて絃が一本切れた。奥にいた蔡琰がすかさず「第二の絃でございます」と言い当てる。父が偶然かと思い、わざと別の絃を切って試すと、今度は「第四の絃です」と当てた。音を聴き分ける耳は、幼くしてすでに父ゆずりであった。 その生涯を語るうえで欠かせないのが、夫・董祀の助命嘆願である。董祀が罪を得て死罪と定まったとき、蔡琰は曹操が客を集めた宴席へ、髪を乱し裸足のまま現れて頭を下げた。その訴えは筋道立って明晰で、辞は哀切をきわめ、満座の者はみな顔色を変えたという。曹操が「気の毒だが、罪を告げる文書はすでに発してしまった」と言うと、蔡琰は答えた——「明公の厩には万の馬がおり、帳下には林のごとき勇士がおります。なぜ一騎を馳せることを惜しんで、死にゆく命をお救いくださらないのですか」。曹操はその言に動かされ、使者を追わせて董祀を赦した。折しも寒中で裸足の彼女に、曹操は頭巾と履物を与えたと伝わる。 父の蔵書を憶えていた話も名高い。四千余巻は戦乱で失われたが、四百余篇を諳んじており、曹操が書き手を遣わそうと申し出ると、「男女の別があり、礼として同席いたしかねます」と辞して自ら筆をとった。書き上げた文に誤りは一つもなかったという。異郷に十二年、子と引き裂かれて帰った人の、これが学者の娘としての矜持であった。

評価

蔡琰は、男性中心の史書のなかにあって、その名と作品が伝わる数少ない女性である。戦乱に翻弄され、異郷に連れ去られ、子と別れて帰るという数奇な生涯そのものが、後漢末の動乱を映す鏡となっている。 学識と文才、そして母としての情をうたい上げたその詩は、時代を越えて人の心を打ち、悲運の才媛として長く語り継がれてきた。

演義

物語や後世の詩文・戯曲では、「文姫帰漢」の主題がしばしば取り上げられる。異郷で子をなし、望郷の思いと母の情の間で引き裂かれる姿が、哀切をこめて描かれる。 曹操が友を思って彼女を呼び戻す挿話は、乱世のなかの一片の人情として語られている。
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