しんし

甄氏

文昭皇后 生没年183年 – 221年 所属

絶世の美貌をうたわれ、寵を失って散った魏の皇后

能力値
統率 F
武力 F
知力 E
計略 F
政治 F
人望 B
関連年表
183年 中山郡無極県に生まれる。父は上蔡令の甄逸
幼少 三歳で父を失う。九歳で書を読み、兄たちの嘲りに賢女の道を説く
後漢末 袁紹の子・袁熙に嫁ぎ、鄴で姑の劉夫人に仕える
204年 鄴の陥落後、曹丕に見初められて妻となる
205年 のちの明帝・曹叡を生む(のち東郷公主も生む)
220年 曹丕が即位。寵は郭氏へ移り、鄴に留め置かれる
221年 讒言により死を賜る(年三十九)
227年 子の曹叡が即位し、文昭皇后と追尊される

略歴

甄氏は、中山郡無極県の名家に生まれた。父は上蔡の令であった甄逸。光和五年(183年)の生まれで、三歳のとき父を失っている。幼くして聡明で、九歳にして書を読み、字を憶えるのが速かったため、兄たちが「女子は針仕事をこそ学ぶべきだ」と笑うと、「古の賢女は必ず前世の成敗を学び、それを鑑としました。書を読まずして、どうして鑑と成しましょう」と答えたという。長じてはその美貌が近隣に聞こえた。 はじめ河北に威を張る袁紹の子・袁熙に嫁いだ。袁熙が幽州刺史として任地へ赴くと、甄氏は姑にあたる劉夫人に仕えて鄴に留まった。 建安九年(204年)、曹操が袁氏の本拠・鄴を攻め落とす。城内に入った曹操の子・曹丕は、劉夫人のかたわらで顔を伏せていた甄氏を見て、顔を上げさせた。その美しさに驚いた曹丕はこれを妻に迎え、曹操も許した。甄氏は曹丕の寵愛を受け、のちに明帝となる曹叡と、女子の東郷公主を生んでいる。後宮にあっては嫉妬せず、他の妃にも子を勧めるなど、よく務めたと伝わる。 だが黄初元年(220年)に曹丕が帝位につくと、寵は次第に郭氏へ移り、甄氏は鄴に留め置かれたまま都へ迎えられなかった。失意のうちに憂いと不満を口にしたことを讒言され、黄初二年(221年)、曹丕から死を賜った。年三十九。 太和元年(227年)、子の曹叡が帝位につくと、母を追尊して文昭皇后とし、手厚く葬り直した。その美しさは後世まで語り草となり、曹植の名作『洛神賦』にうたわれた洛水の女神を甄氏になぞらえる伝説も生まれたが、これは後世の付会とされている。

逸話

甄氏の聡明さを伝える逸話は幼少期から始まる。天下が乱れて飢饉となったころ、甄家は蓄えた穀物と引き換えに、人々の持ち込む金銀珠玉を集めて富んだ。まだ十歳あまりの甄氏はこれを見て母に言った——「乱世に宝を抱えるのは、災いのもとでございます。近隣がみな飢えているのですから、穀物を施して恩を広くなさるべきです」。一家はその言に従い、蓄えを親族や近隣に分け与えたという。 兄が早くに世を去り、母がその未亡人につらく当たったときにも、甄氏は諫めた。「兄上は不幸にして早世されました。嫂上はお若くして寡婦となり、なお子を育てておられます。実の娘のように遇されるのが道理でございましょう」。母は恥じ入り、以後は嫂を厚く扱ったと伝わる。 曹丕が甄氏を妻に迎えたことについて、孔融は曹操へこう書き送った——「武王は殷を伐って、妲己を周公に賜わりました」。曹操は博学ゆえの故事と思い、出典を尋ねた。孔融は答える。「いまの出来事から推し量りますに、当然そうであったのでしょう」。名族の妻を戦利品のように与えたことへの、痛烈な皮肉であった。 そして、甄氏の名を文学史に刻んだのが『洛神賦』である。曹植が洛水のほとりで出会った女神を絶美の筆でうたったこの賦を、後世の人々は「亡き甄氏への想いを託したもの」と読み、義姉への秘めた恋という物語を育てた。史実の裏づけはなく後世の付会とされるが、彼女の美しさと悲運が、それだけの伝説を呼び寄せたということでもある。

評価

甄氏は、乱世に翻弄された美貌の女性の代表として語られる。袁氏から曹氏へと嫁ぎ先を変え、一時は寵愛を一身に集めながら、寵の移ろいとともに讒言に斃れた。 その悲運と美しさは、『洛神賦』の女神像と結びついて理想化され、文学と伝説の中で永く生き続けることになった。

演義

後世の詩文や物語では、甄氏(甄姫)は絶世の美女として描かれ、その数奇な運命がしばしば主題となる。 曹丕・曹植の兄弟と甄氏をめぐる恋情の物語や、『洛神賦』の女神との結びつきなど、史実に彩りを添えた伝説が数多く生まれた。
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